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2017年10月31日火曜日

技術報原稿

ウレタン噴火実験


アジア航測株式会社 先端技術研究所 千葉達朗・有安恵美子

1.   導入

火山学の分野では、噴火のメカニズム研究や防災教育のための取り組みとして、アナログモデル実験がよく行われます。アナログモデル実験とは、時間的空間的にスケールの大きな現象の研究に用いられる手法で、スケールモデル実験ともよばれます。数値シミュレーションでは時間がかかる、詳細で複雑な地形条件の再現が得意で、コストも小さくて済みます。結果もわかりやすく、停電でも実施可能です。火山を対象にした取り組みとしては、精密に削りだした地形模型を使用した、シャンプー溶岩流下実験1)や、地形を精密に再現した型にゼリーを流し込んで行うキッチン火山実験2)などが行われてきました。
このたび、発泡ウレタンと粉体を使用した、全く新しい火山噴火のアナログモデル実験を考案しました3)

2.    発泡力

マグマには、揮発性成分が含まれています。H2OやCO2などの火山ガスです。マグマが地下深くにあるときには、高温・高圧のために溶け込んでいますが、上昇に転じると、減圧のために気化し気泡となり、マグマの体積は急激に膨張します。気泡が大きくなるにつれ みかけ密度が低下、加速度的に上昇し、ついには火口から噴出します。これが火山の噴火のしくみです。そのため、固化した溶岩には多数の気泡が含まれています。火口から大気中に放出される際には爆発を伴うことも多く、火山噴火の実験は危険で困難です。また、マグマの膨張にともない隆起などの地殻変動も発生しますが、その状況をアナログモデル実験で再現することは難しいことでした。また、気泡の成長こそが噴火の主な原動力であることも、なかなか理解しにくい点でした。

3.   硬質発泡ウレタン

発泡ウレタンは、木造住宅の断熱工事や、空洞充填剤として広く使用されています。特に、2液性硬質発泡ウレタンは、2液を混合してから5分程度で固化し、その間に体積が約50倍に膨張します。その後、長期にわたって変化しない安定な建築材料として知られています。特に、ハンドミキシング法は、JIS規格にも採用されている手法で、容器内に2種類の発泡原液を同量投入して撹拌することで、発泡させるというものです。今回、容器として壁面に凹凸のある口の狭い容器を使用することにより、効率的に発泡させ、安定した気泡流を噴出させることに成功しました。また、噴出したウレタンは、空気中では単純に垂下しますが、粉体中では浮力で上昇する場合があることを発見して、この一連のアナログモデル実験を考案しました。


4.    実験準備

表1に実験材料の一覧を示します。これは実験1から7まですべて行うのに必要な材料と数量とおおまかな金額です。2液性発泡ウレタンは、T液とR液のセットで販売されています。通販あるいは大きなDIYショップで入手できます。粘性が高いので、あらかじめソース容器等に移しておくとよいです。等量混合は本来容積ですが、比重が同程度なので重量でもさしつかえありません。粉体材料としては、表以外にも見かけ密度が異なる様々な物質を試しています。たとえば、鉢底石、軽石、スコリア、中粒砂、金魚鉢用細礫などです。

表1 実験材料
番号品名種類サイズ個数金額
1ウレタンR液1000ml12,900
2ウレタンT液1000ml12,900
3一輪挿し上すぼまり100cc6600
4プラスチックカップ透明350cc10200
5漏斗円錐形10cm1100
6割りばし混合用20cm50100
7電子天秤計量用1000gまで1500
8絵具マーブリング用8色1500
9ソース容器液だれ防止用300cc2200
10バケツ上広がり5l2200
11猫のトイレの砂ベントナイト系500g41,200
11発泡スチロールビーズ梱包材料500cc2200
12大理石細礫角礫200g1500


5.    実験

以下に、実験方法を写真とともに示します。1から7まで順に行うことで、噴火の仕組みをよく理解できます。

実験1:

350ml透明カップにT液とR液を各30gづつ投入、割り箸で攪拌します。1分後ウレタンは発泡を開始、一定の割合で垂直に上昇し、5分後に固化します(図1)。
図1

実験2:

ウレタンが膨張を始めて、カップの縁を越える前の段階で、さかさまにした漏斗をカップにかぶせることで、漏斗の下(上の口)から、ウレタンを勢いよく噴出させることができます。流量一定の条件では、断面積が小さいほどより高速となるためです。上ほど徐々に狭くなっている形状の漏斗では、なめらかに加速します。上昇するウレタンは時間と共にに粘性が増加し速度が低下、最後は漏斗口が閉塞します。その後は、漏斗がカップから離れないように押さえつける困難となり、漏斗ごと全体的に隆起します(図2)。
図2

実験3:

上部の断面が狭い、一輪ざしなどの小瓶に入れて、ハンドミキシングをすることで、安定的に発泡するウレタンを効率的に生成させることができます。100ccの容積に対しR液とT液それぞれ30gずつが入れた例です。攪拌開始後、約1分で急激に発泡が始まりますので、あふれ出しても大丈夫な台の上に置き、小瓶からはなれます。所要時間は、瓶の形状や投入量、攪拌方法、気温等で変化します。瓶の形状や、ウレタンの投入量でも変化しますが、おおむね、膨張の開始から固化までは4分程度で、膨張開始は音の変化でわかります。ウレタンは、瓶から噴出した後も個々の気泡の膨張が継続するので、最初に噴出した先端部ほど、径がより大きくなっています(図3)。
図3
 

実験4:

撹拌後の小瓶をバケツの底に定置し、その上にすばやく様々な見かけ密度の粒状物質を投入することで、ウレタンの形状の変化を連続的に確認することが出来ます。粒状体の見かけ密度が極端に小さい、発泡スチロールビーズの場合は、密度が同じなので瓶の出口を中心とした球形の塊を形成します(図4)。同一条件でウレタンの量を増やすと、表面に現れますが、その直前に隆起などの変形現象が観察できます(図5)。
 
図4
図5 バケツを満たしたスチレンビーズの内部で
ウレタンが膨張し、頭が表面に出始めた瞬間の写真

実験5:

ベントナイトを粉体に加工したネコのトイレの砂は、ウレタンよりもだいぶ比重が大きく、ウレタンとよくなじむので、実験材料としてすぐれています。発泡ウレタンは膨張の過程で、気泡の核数は増えないで、気泡サイズが大きくなるという性質があります。そのため、発泡ウレタン密度は時間とともに小さくなっていくので、ウレタンは浮力で上昇を続け最終的に、粒状体の表面に到達して、横に広がります(図6)。この様子は溶岩ドームの形状によく似ています。溶岩ドームが顔を出す寸前に、表面が膨張変形する様子もみられます(図7)。
図6
図7  

実験6:

粒子の種類や量、ウレタンの量や色を変化させることで、様々なバリエーションを作成、マグマの上昇の様子や、ドームの成長の様子をシミュレーションすることが出来ます(図8)。

図8

実験7:

瓶の口の上に大理石粒子を載せることで、小爆発を起こすことが出来ます。バケツの表層部に発泡スチロールビーズを入れておけば、数センチ程度噴き上げる、火山弾を作ることが可能です(図9、動画1)。
図9

動画1

6.  まとめ

2液性硬質発泡ウレタンを使用した、噴火のモデル実験法を開発しました。発泡の力により、地殻変動から、溶岩流や溶岩ドームの形成、爆発的な噴火まで再現することができました。固化後のウレタンは、安定しておりカッターなどで断面を観察することも可能です(図10)。
 
図10
また、瓶の形状や投入する量によって、そのたびに異なる結果が得られることは非常に興味深いものでした。2017年5月にJPGUのアジア航測のブースで実演を行った際は、多くの研究者や学生・院生に大好評でした(図11)。2017年の東大地震研の一般公開でも、この実験を披露しました。今後は、条件をさらに精査し、安全でよりわかり易いレシピを確立し、火山学のアウトリーチに役立てていきたいと考えています。

図11 JPGUでの実験状況(松島さん撮影)